長門と陸奥は鎮守府近くの小さなステーキハウスにいた
このステーキハウスは本日が開店初日で厨房には陸奥
レジ前には注文表とお盆を持った長門が緊張をした面持ちで客の初来店を待ちわびていた
ガラスをはめ込んだ木製の入り口ドアの鈴がチリンチリンと鳴りゆっくりと扉が開いた
この店にとって記念すべき、初めての来客だ
長門「い、いらっしゃいませーいらっしゃいませー、、あー・・いらっしゃいませー」
陸奥(何回いらっしゃいませ言うのよ、こちらへどうぞでしょ)
長門(わ、わかっている)「お、おきゃくさま、こちらへどうぞ・・」
長門「お、お客様、肉にしますか、肉にしますか、えー・・それとも肉にしますか」
陸奥(お飲み物は〜?でしょ長門なにやってるの!)
長門(わ、わかっている)「お、お客様、お飲み物は肉にしますか」
陸奥(お飲み物は如何いたしますか?でしょ!もう・・)
長門(わ、わかっている・・この客がどれほど肉を欲しているかを試したのだ・・)
陸奥(・・肉を食べない人がステーキハウスに来るわけないでしょう!)
陸奥(お飲み物はいかがですか、ね)
長門(わ、わかっている・・)「お、お飲み物はイカにしますか?」
朝雲「ねー山雲、イカ飲めるー?」
山雲「ちょっと飲み辛いですねぇ」
客は同じ鎮守府の朝雲と山雲であった
長門「なんだ、おまえたちか!この長門緊張していて気付かなかったわ」
長門「お前たちなら全部タダでいいぞ、思い存分食べるがいい!」
陸奥(ダメよ長門、この辺は鎮守府関係者ばかりなんだから、それじゃ商売にならないわ)
長門(そ、そうか・・)
陸奥(いい長門、知り合いが来てもちゃんとお金を貰うのよ、それじゃなきゃ儲けが出ないんだから・・)
長門「朝雲山雲、今のはナシだ、まずは金を貰おう」
朝雲「まだ何も食べていなのにー?」
山雲「まだ食べてないですよねぇー?」
長門「すまない、私と陸奥は儲けが欲しいんだ、悪いが金を出して貰おう」
陸奥(注文とって食べ終わってから貰うのよ長門!それじゃ強盗だわ・・)
長門「そ、そうだ、お前たち・・注文はどうだ、注文はするか?注文して食べ終わったら金の話しをしようじゃないか?」
山雲「オススメとかありますかー?」
長門と陸奥がこのステーキハウスを開いたのは鎮守府を解雇され金に困ったからではない
そしてこのお店を始めた理由は、他でもない長門の達ての希望からだった
長門はいつも間宮に行く度、感心していた
皆の要望に応える料理を作るだけではなく、そこを訪れた人々に
いつでも心やすらぐ憩いの場を提供している事に長門はいつも感心していた
(私にもあんな風に皆がくつろぎ楽しめる空気を作る事が出来るだろうか)などと考えてしまう事もあった
そしてある日、長門の心境を大きく変える出来事が起きた
その日長門は任務で帰りが遅くなり随分夜が更けてから間宮を訪れた
誰もいないだろうと入った店内では隅の座席で鳳翔がひとりでうどんをすすっており間宮は不在だという
用事で少し出かけたらしいが食事をしてすぐに司令室に戻りたかった長門は少し困った
うーむと腕を組み困った顔をした長門を見て鳳翔は、「同じものでよければ」と厨房に入り調理の算段をし始めた
その光景を長門は黙って眺めていた、その光景を見ているだけで強い安心感と安らぎを覚えた
私は多くの仲間に囲まれ共に暮らし支えあっているんだなという事を改めて実感出来た
鎮守府の催しなどで鳳翔の料理の腕が高い事は知っていたが
目の前で自分の為だけに厨房に立つ鳳翔の姿を見るのは新鮮で不思議な気分だった
その後間もなく鳳翔はかまぼこや青菜の乗ったうどんにごはんと漬物をお盆に載せて長門の前に置いた
「お口に合えばいいんですけど、この位しか出来なくて、フフ」と鳳祥は微笑んで見せた
「すまん、助かる」と長門は言葉少なにうどんに手を伸ばした
うどんは美味かった、なんだか胸の奥がじんわりして自分の座席に戻った鳳翔にそれを伝えたいと思ったが
長門はなんと言っていいのか、分からなかった
「う、うまいな」
あまりに唐突でぶっきらぼうな言葉に長門は自分で赤面しそうになったが
鳳翔の方をチラリと見やると鳳翔もこちらを見ていて再び「フフッ」と微笑んで見せた
まあいいだろう意図は伝わったようだと長門は思った
それから長門は料理やお店に興味を持つようになった
長門が所属する鎮守府では交代で長い休みが貰える事があった
当然いつでも誰でも貰えるという訳ではなく勤務の長いものが貰えるケースもあるという感じだ
陸奥は旅行に行きたいと言っていたので同意を貰えるか微妙なところだったが
長門は思い切って陸奥に話してみた
「お店をやってみたんだ」、陸奥は余りに唐突な話に少し不思議そうな顔をしたが
「あら、いいじゃない」とあっさり同意してくれた
いつも任務以外に興味がなさそうな長門が何にどう興味を持ったのか陸奥は見てみたかったのだ
それから話はトントン拍子に進んだ
先ずはお店を出す店舗を探して、工事の段取りや予算の決め、どんなお店にするかなど話し合った
軍関係者ということで不動産屋は色々と親切にしてくれ保障や前金についても便宜を計ってくれた
長門はなんだか気恥ずかしくて間宮にこの事を話していなかったが
店舗の設立や運営方法など全く未知の世界なので陸奥が間宮に相談して
間宮設立時の軍関係者やご用達業者などに連絡を付けてもらった
当然予算は限られ長く続ける店でもないのでそれなり大きさの店とある程度厨房器具の揃った店舗を探してもらった
そこで大きなというか根本的な問題に当たった、長門は料理など全く出来ないのだ
どんな料理を出すかという問題以前に、料理そのものの経験が全く無かった
陸奥は経験ゼロではなかったが当然たかが知れていた
長門は和食のお店がやりたいと粘ったが土台無理な話で陸奥が説き伏せた
居酒屋のように冷凍食品やレトルトだけで賄う話も出たが長門が調理に拘るので却下になった
そこで食材屋に段折りをつけてもらいステーキのお店にすることにした
メニューはいくつかのステーキとサラダ、パンかご飯といった数が少なく簡単なものにした
当然ステーキに掛けるソースなどは市販のものでスープも極めて調理が簡単なものを用意した
本当はステーキも冷凍の出来合いポテトサラダなども業務用のパックにしたかったが
長門が調理に拘るので肉は自分達で切り、サラダも自分達で野菜を刻んだりイモを潰すことにした
しかし長門には料理に関して最低限のセンスすらなかった、致命的に料理に向いていなかったのだ
肉は真っ黒に焦げるか酷い生かで焼き分けることが出来なかった
スープも簡単に出来るそれらしいものを間宮が開発して陸奥に伝授していたが
長門がそれを作るととても客に出せるレベルではなかった
開店まで時間は余り残されておらず、結局長門の仕事はイモを潰すこと、皿洗いと掃除、接客に決まった
調理以外にも店舗設立に当たり多方面への申告や手続きが必要だったがそれも陸奥が行っていた
当然調理師資格のある鳳翔などにも協力してもらい色々な届出に奔走したがそれも長門には内緒にしていた
長門はそんな陸奥の苦労を知ってか知らずか毎日予算や経費が書かれている書類とにらめっこをしていた
小さく簡単な作りのお店であったがそれなりにお金は掛かり長門の貯蓄は底を尽き掛けていた
陸奥(なにやってるのよ!もう・・)
陸奥は長門の予想以上にぎこちない接客に多少の苛立ちを見せていた
長門の貯蓄がほぼ底を付いた現在、開店してからの大赤字は陸奥の持ち出しになる可能性がある
というより、もはや少しだが陸奥が立て替えている費用などがあった
儲けるのは難しいにしても、少しでも赤字を減らさねばという焦りが陸奥にはあった
朝雲「長門さん、オススメはー?」
長門「ラ、ランチなんてどうだ?ランチはいいぞ昼だからな」
長門「む、陸奥よ、ランチを二つ頼む・・」
長門はテンパっていた、そもそもこの店にランチなどとという洒落たメニューは存在しなかった
陸奥「・・ふたりは苦手な食べ物とかある?」
朝雲「苦いのとかはイヤねー」
山雲「いやですねぇー」
開き直った陸奥は適当な肉を焼き適当なソースを掛け野菜を添えてポテトサラダとスープ付け合せる事にした
どうせ全部似たり寄ったりのメニューだ、肉の種類だって言うほどない
陸奥「ご飯とパンどっちがいい?」(長門ちゃんと聞いてよ)
長門「ふたりは若いからパンがいいな、そうだな?」
陸奥(余計な事言わないで!)
長門(わ、わかっている・・)
朝雲「お肉にはごはん派かなー」
山雲「ですねー」
長門は間宮の店ではいつもどうしていたのだろうと考えていた
長門は店に入ると黙って注文だけし、しばらく経つと注文した品が出てくる
食べ終わり黙って金を置いて店を出ようとすると後ろから間宮がいつもこう言う
「ありがとう御座いました」
これだ、と長門は思った
長門「朝雲山雲よ良く聞け、黙って金を置いて店を出ろ、私がありがとうと言おう」
朝雲「無茶苦茶ですよー」
長門「何?間宮と一緒ではないのか?」
朝雲「間宮さんはそんな居直り強盗みたいなこと言わないよ」
山雲「まだ、食べてないですー」
朝雲「ねえ、食べてもいないのにねえ」
陸奥(もうやめて長門・・)
しばらくすると店のドアが再びチリンチリンと鳴った
新たな客が来たのだ
満潮「来てやったわ」
長門「おお、満潮、満潮ではないか」
満潮「フン、どうも」
満潮とその後ろから霞も入ってきた
長門「おお、どうした2人して?」
満潮「聞いたから来てやったのよ」
長門「そうかそうか適当な席に座るがいい」
長門は立て続けに知り合いばかり来るので少し緊張が和らいでいた
霞「・・随分適当な接客ね」
2人が席に着くと長門が水とメニューを持ってきた
長門「お前たち2人もランチでいいか?」
満ち潮「は?ランチなんてどこにも書いてないじゃない」
長門「あれがランチだ」
長門は朝雲と山雲のテーブルを指差した
霞「・・メニューにないのにどうやって頼んだのよ」
長門「私が決めた」
満ち潮「メニューの意味が無いじゃない!」
霞「強制なの?この店の接客どうなってんのよ!」
長門「そ、そんなことはないぞ、接客はわたしも随分練習したからな」
満潮「じゃあ、やってみなさいよ」
満潮に急き立てられ長門は少しあわてた
長門「・・ゴホン、お、お客様、肉は飲みますか?」
霞「飲まないわよ!」
満潮「飲むわけ無いじゃないの!」
長門「と、ところでお前たち、聞いて来たと言っていたが、一体誰に聞いてきたんだ?」
当然間宮と鳳翔に聞いて来たのだが長門には2人がこの店の事をまだ知らないという事になっていた
満潮が陸奥に視線を移すと陸奥は首を振り目で合図をしてみせた
満潮「き、近所の人によ・・」
長門「そうか、この店も早くもご近所では噂になっていたのか・・頼もしい話しではないか」
この店のオープンが近所の住民の噂になっていると思い込んだ長門は少し機嫌が良くなったようだった
そうこうしてる間に頼んでもいないランチメニューが満潮と霞のテーブルにも運ばれてきた
長門「さあ食え食え、当店自慢のランチだぞ」
向こうのテーブルでは朝雲と山雲がなにやら話しながらモグモグと口を動かしている
満潮が「どうも」と言いながらランチをしげしげと眺めていると再びドアの鈴がチリンチリンと鳴った
最上「やあ、ほんとうにお店やってるんだねえ」
長門「おお最上ではないか、ランチを食べに来たか!肉は飲むか?」
次々に客が来るので長門は上機嫌のようだった
最上「いやあ、肉を飲むのはちょっと・・三隈は?」
三隈「わたくしも遠慮しておきますわ・・」
長門「そうか、それではランチだな、陸奥、ランチを2つ頼む」
最上と三隈はそれを然程不自然にも思わなかったようで窓際の席に行きランチが来るまで談笑していた
窓際の席といっても小さい店で店内は細長く殆どの席が窓に接していた
その後特に来客も無く昼の部は終わり、夜になると再び何組かの知り合いが来店した
そういった日がしばらく続き、知り合い以外の客は殆ど来なかったが
それを長門は特に不満にも不思議にも思っていないようだった
開店から随分日がたったある日、その日のランチもひと段落して
陸奥と長門がコーヒーを飲みながらそろそろ店を閉めようかと話していたところ一組の客が来店した
間宮と鳳翔だった、お店は伊良子に任せて二人で出てきたようだった
鎮守府の連中が出入りしている以上、いつか間宮や鳳祥にも知られるであろうと思っていた長門であったが
突然の来店にはさすがに少しどころではなく狼狽した
間宮「開店おめでとう御座います」
鳳翔「素敵なお店ですね」
長門「ど、どうも・・」
陸奥「どうもじゃないわよ長門、早く席に案内して」
長門「こ、こちらにどうぞ・・」
間宮と鳳翔は微笑みながら2人のやり取りをみていた
間宮「ランチがおいしいそうですね」
長門「え、ええ・・肉は・・いや水は飲みますか?」
鳳翔「もう頂いています」
長門は必死に冷静さを保とうとしていたが高揚と狼狽が入り乱れて上手く話せなかった
長門「・・ン、ゴホン、コーヒーは如何ですか?」
間宮「では食後に・・鳳翔さんもそれで・・」
鳳翔「はい、私も食後に頂きます」
長門「ランチ二つにコーヒー二つ、少々お待ちください」
2人はまだランチを頼んでいなかったが長門の中では頼まれた事になっていた
長門は厨房に入ると半解凍の肉を切り分け、その一塊をフードプロセッサーにかけた
なぜ長門の中では頼まれた事になっていたかという話だがいつもの半強制とは少し事情が違っていた
なぜなら長門はいつか来るかもしれない二人が来店した際のメニューは初めから決めており
それが厨房に立ち肉を切り始めた理由でもあった、陸奥はその様子を黙ってみていた
当の間宮と鳳翔は皆から聞いていた店の様子とは違い長門が厨房に立っているので
少し意表をつかれ、ふたりとも黙ってその様子を眺めていた
陸奥「長門、たまねぎ刻もうかしら」
長門「いや、いい、わたしがやる」
長門は今度たまねぎを不器用に刻み始めたが
あまりに飛び散るので陸奥は横から少しずつボールに移し取った
そこに挽いた肉をいれ長門は一心不乱にこね始めた
間宮と鳳翔はその様子を見てピンと来ていた
なぜならその料理の作り方は陸奥に問われて間宮が教えたものだったからだ
お店のメニューに中々追加されないようなので断念したのだろうと間宮と鳳翔は思っていた
陸奥はだまって付け合せの野菜をゆで始めた、長門に聞くとまた私がやると言い出すに違いがないからだ
恐らく2人は無理に時間を作って鎮守府を抜け出してきたのだろう
余り時間は取らせられらないと陸奥は考えていた
長門「ど、どうだ陸奥・・?」
こね終わって形作ったものを陸奥に見せ長門は緊張した面持ちで意見を聞いた
陸奥「いいんじゃない」
長門が荒いやり方でこねくり回したモノは多少加減を変えたところでどうせ味など然程変わらなかろうと
陸奥は考え、更に時間がかかった上ひどい状態になる可能性もあるため長門にそこで良しとさせた
長門「あぁ、あつっあつっ・・つ・・」
長門はフライパンにその塊を乗せようとして油が盛大に飛び跳ね、フライパンの上に大きな炎が上がった
陸奥は黙って横からフライパンにフタをした
陸奥「長門、ポテトサラダだして」
長門「いや、私は火の加減を見なくては・・」
陸奥「大丈夫、その時は教えてあげるわよ」
長門「そ、そうか・・わかった・・」
焼き加減を長門に任せれば黒焦げになることは分かり切っていた
現にこの料理も長門は店が捌けてから何度も練習したがその度黒い塊が幾つも出来上がった
実は長門はこの日のために練習をしていた、
今日だけは失敗させられないと陸奥は考え長門を火元から引き離した
早くも火の事などすっかり頭から無くなっていた長門はせっせと器に不器用にポテトサラダを移し替えていた
そして長門は移し替えたその器をフォークや箸などと一緒にお盆の上に並べて叫んだ
長門「火、火はどうした陸奥?」
陸奥「もう止めてあるわよ」
長門がふたを開けると中のそれは初めて黒くない食べものらしい姿を見せた
長門「なんだ!出来たじゃないか!」
長門は首を伸ばし間宮と鳳翔の方に目をやったが
向こうも長門を見ていたので恥ずかしくなり顔を横に向けた
間宮と鳳翔はその様子を見て、顔を見合わせ口の中でウフフと笑った
長門を笑ったわけではない、何となく幸せな気分が込み上げてきて微笑んだのだ
2人は今日ここに来られて本当に良かったと感じていた
その間に陸奥はお盆にスープとライスを乗せ、「長門いいわよ」と伝えた
長門がこねて焼き上がった物体には市販の専用ソースも掛けておいた
長門「お、おまたせしました、、」
出てきた料理は間宮と鳳翔の予想と少し違っていたが恐らくあれであろうと思った
間宮「今日のランチはどんなメニューですか?」
間宮は皿に乗ったいびつなラグビーボールのようなものに視線をやった
鳳翔の皿には大きな歌舞伎揚げのような物体が乗っている
「と、当店自慢の手作りハンバーグです」と長門は緊張しながら紅潮した様子で言った
間宮「まあ、おいしそう」鳳翔「おいしそうですね」長門の顔が少し明るくなった
長門は厨房に戻ったが二人の反応が気になり、ふたりの会話に耳を傾けながら食べる様子をジロジロと凝視し続けていた
陸奥はやめなさいと嗜めようかと思ったが、二人とも事情は知っているので気を悪くする事もないだろうと思いやめた
厨房から見えるふたりの会話は和やかに弾んでおり反応は悪くなさそうだと長門は感じて少し安心した
人が自分の作ったものを口に運ぶ様子を見て長門は間宮がいつも感じている気持ちに少し近づけたような気がした
陸奥は二人が食べ終わる頃を見計らいコーヒーの支度に入った
何を話しているのだろう、間宮と鳳翔は始終楽しげに食事と会話を繰り返していた
間宮にとって他の娘の料理を客という立場で提供される事自体新鮮で大変楽しみな行事ではあっただろう
陸奥「長門いいわよ」陸奥はコーヒーを長門に持たせ客席へと送り出した
長門は緊張と高揚が入り混じった状態がピークになりロボットのようにぎこちなく二人のもとに向かった
長門「コ、コーヒーをお持ちしました・・」
間宮「ありがとう御座います」
長門「・・お、お口には合いましたでしょうか・・」
間宮「ええ、とっても、長門さん料理お上手なんですね」
長門「/////////」(・・聞いたか陸奥)
鳳翔「サラダもとってもおいしかったですよ」
長門「・・わ、わたしがイモを潰しました・・」(・・おい、聞いたか陸奥・・)
陸奥(・・いちいちこっち見なくていいわよ)
間宮「ほかの皆さんも喜んで帰られるんじゃないですか?」
長門「いやあ、わたしなんてまだまだ、、なあ、あれだなあ・・陸奥・・」
陸奥(・・あれってなによ?)
長門「・・ゴホン、りょ、料理というのは、、あれだなあ・・」
陸奥「おふたりともコーヒーのお代わりは遠慮なく言ってくださいね、サービスしますから」
気分の高まった長門が余計な講釈を始めそうなので陸奥は途中で遮った
長門が知らないだけでこの店自体かなりの部分ふたりの助力によって成り立ってきたのだ
知らないとは言えそのふたりに講釈を始めるなど陸奥の方が恥ずかしくてこの場にいられなくなる
鳳翔「長門さんの料理のお話しまたいつか聞いてみたいわ」
長門(・・・・)陸奥のほうをチラッと見る
陸奥(やめなさい)
長門「ン、ゴホン、で、では、ごゆっくり・・」
長門は少し物足りなそうにしおらしく厨房に戻り、陸奥はカウンター越しにふたりに対して苦笑いしながら頭を下げた
思いのほかゆっくりと時間を取ったふたりはコーヒーも飲み終わり帰り支度を始めた
陸奥としては散々世話になったふたりから御代を貰うつもりは無かったが
長門の前でふたりだけタダと言うのも不自然なので会計は長門に任せることにした
長門「・・ご、ご苦労であった・・」
陸奥(・・何言ってるのよ長門・・)
長門「えーそれでだが、あれといってはあれなんだが・・も、もう腹の具合はあれだろうか・・?」
長門にしても来るかも知れないとは思っていてもふたりから御代を頂くという所までは
予定に入っていなかったらしく、なんと切り出していいのか考えあぐねているようだった
陸奥「長門ちょっといい?」
陸奥は長門を厨房に呼び寄せ用事を言いつけて長門が目を離した隙に
お代は貰ったことにして二人には帰ってもらうことにした
鳳翔「それじゃあまた」
陸奥「大したお構いも出来ませんで」
間宮「ご馳走様でした」
入り口ドアから退店しようとするふたりを見ながら長門は何か大切なことをやり忘れていると感じていた
長門「あ」
間宮「あ?」
長門「・・・」
鳳翔「どうかなさいました?」
長門「・・あ」
鳳翔「あ?」
長門「・・あ、・・ありがとう・・」
ゴツンッ
長門「ご、ございました!」
長門はとっさに頭を下げたので流しの収納に思い切り頭をぶつけたが
ふたりは何も見なかったかのように会釈をして店を出て行った
陸奥「長門大丈夫?」
長門「なんてことは無い」
何かひとつやり終えたような気分になっていた長門はいつもの長門に戻っていた
陸奥「じゃあ、そろそろ閉めましょうか」
休憩を挟みそして夜にはまた何組かのお客が訪れいつものように一日が過ぎ店仕舞いをした
そしてここから陸奥の仕事が始まる
陸奥「あ、もしもし?吹雪?、悪いけど第六呼んで来てくれる?」
毎日鎮守府関係者が途切れる事なく来てくれるのは長門と陸奥の人徳と言いたい所だが
当然それだけではなかった
「ああ、暁ー?久しぶりねー元気にしてたー?・・」
店が捌けた後、毎晩の陸奥の電話攻勢により売り上げは低い日でも2万円代を切ることはなく
儲けるまではいかないにしても大赤字という最悪の状態は免れ店舗を明け渡した後も
必要以上の出費に迫られる事は無さそうだった
陸奥の内助の功により金銭的危機は脱したが陸奥はこの出来事により
鎮守府内で「営業の鬼」という余りありがたくないニックネームを拝領する事となった
この日も陸奥は電話で何人か翌日来店のあたりをつけ厨房に戻ると
掃除や片付けをほったらかした長門が何やらガス代の前で腕を組んで見つめていた
後ろから陸奥が覗いて見るといつもの黒い物体が煙を立ててフライパンに乗っている
長門「明日から他の客にも振舞おうと思ったんだがな・・」
陸奥「もう十分でしょ?」
長門「・・ああ、そうだな」
長門は黙って洗い物を始めた
終わり
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