初心者用艦これ 伊26と伊504 ジローとコウジの物語 ステータス 改二 装備編成 オリョール

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26「504ちゃんすごーい」

504は満足気だった

思ったより26の反応が良く、26の驚き方が予想を上回るものであった為だ

26「うわー504ちゃんほんとすごーい」

504は夏の間にオリョクルマートでアルバイトしたお金でオートバイの免許を取得していた

26「すごーい、もう1回見せてみせてー、うわっほんとすごーい」

事の発端は以前26が504に原付免許を見せた事だった

504「26ちゃんすごーい」

504は海外生まれで呉鎮守府に所属していた

山梨にあるこの人知れぬ小さな兵学校には26より後に着任した

26は呉生まれの横須賀育ちで奔放な明るい性格だった

外国生まれな上、遠路はるばる初めて東日本に来た504は

もともと口数も少なく成績も模範的な生徒だったため

この山梨での暮らしも任務と考え、黙々と機械的な日々を送っていた

そんな2人は些細なきっかけから言葉を交わすようになり

すぐさま仲良しになった

意気投合したのには特に理由があった訳ではない

兎に角一緒にいると楽しいというか落ち着くというか

一緒にいるのがとても自然に感じられるのだ

そんなある日504は26から一枚のカードを見せられる

504「26ちゃん何それ?」

日本語はかなり堪能になっていた504だったが

日本については知らない事もまだまだ沢山あった

26「免許だよ免許、スクーターとか50ccまで乗れるやつ」

504「すごいすごーい、運転とか出来るんだ?」

26「う、うん、まあ取ったばかりだからあんまり運転したこと無いけどね」

504「でもすごーい、もう1回見せてー」

それからしばらくして504はオリョクルマートで週何回かのアルバイトを始めた

免許に興味を持った504は免許について書いてある冊子などを

見つけるとついつい目が行き結果として色んな資料を集める事となった

免許やオートバイ自体に興味があったのではなく26が持っているものだから

色々知りたかったというのが正解だろう

504は26が原付免許を持っている事がなぜか誇らしく思えてとても嬉しかった

その延長で免許とはどんなものかと興味がわいて多くの冊子に目を通す事となった

元々オートバイの知識などあまり持ち合わせていなかった504は

原付より大きなオートバイの免許の資料を見て取得には非常にお金がかかるのもだと思い込み

オリョクルマートでのアルバイトを始めた

最初のバイトの給金で買った免許のテキストと参考書で

504はそれは原付免許のそれではないことに気がついたが折角なので頑張って挑戦してみようと思い

そのままアルバイトとオートバイ免許の勉強を続けた

そのころには504も兵学校近隣の町の住民達に気立てのいい外国生まれのお嬢さんとしてある程度認識され

それなりに居場所も得ていたので慣れない客商売も新鮮さと相まって遣り甲斐のあるものになっていた

そこまで行動を起こした504であったがアルバイトを始めたことも含めて26には何も話していなかった

何となく気恥ずかしいというのもあったが、自分がとても驚いたように26にも驚いて欲しかったのだ

そしてその日がやってきた

2人は兵学校のカリキュラムが全て同じではないのと504の秘密のバイトの言い訳とで

会うこと自体が久しぶりだった

久しぶりに見る504はなんだか以前より日焼けしていてちょっと精悍な顔つきになったように26は感じた

26「なになに?見せたいものって?」

504「26ちゃん、あのね・・これ・・」

504は恥ずかしそうに顔を隠すように顔の前にカードを両手でつまんで出して見せた

26は504が原付免許に興味を持つのではないかと思っていた

504であればその根気と何事にも一生懸命な姿勢で免許取得自体は難しくないであろうと考えていた

しかし26の予想は当たってはいたが外れてもいた

26「すごーい!原付じゃないじゃん、えーー!?」

26「ど、どうしたのこれ!?」

504「う、うん」

504は以前自分がとても驚いたのと同時に凄く嬉しく感じた気持ちを26も感じてくれていると思った

とても嬉しかった

26「そか、がんばったんだね」

504「う、うん」

ふたりは電車の窓から外を見ていた

504「26ちゃんみてみて、きれいな景色ー」

26「うんうん綺麗綺麗、山梨とあんまり変わらないけどねー」

504「ワタシ山ってあんまり見たこと無いから凄くきれいー」

504「キレイな緑色、凄く緑色」

26「そうだね、凄く緑色だね」

ふたりは電車で長野に向かっていた

504の知り合いのおじさんが自宅の倉庫に眠っているオートバイを1万円で譲ってくれるというのだ

このおじさんは仕事で山梨にやって来ることが多く町の住民とも古くからの顔なじみであった

オートバイを見せてもらうのが目的だがふたりにとっては任務以外で初めての小旅行であり

訳も無く楽しかった

駅まで着いたらおじさんが車で迎えに来てくれることになってはいたが

504と26が駅に着いた時にはもう小さな荷台の付いたおじさんの自家用車が駅前に横付けしてあった

前に乗りなよというおじさんの忠告を丁寧に断って、景色が見たいからという理由でふたりとも荷台に乗った

荷台に乗るとき、ふたりの手にはヘルメットが握られているのが見えた

現物確認で呼んだつもりのおじさんは心の中で苦笑いした

504「おしりいたーい」

26「アハハ」

車がはねるたび荷台がふたりのお尻を跳ね上げたが、それはそれで楽しいふたりであった

おじさんの自宅に着き、倉庫の片隅においてあるオートバイを見せてもらった

埃をかぶった空冷の250ccの赤いオートバイであった

試しにおじさんがエンジンを掛けてみようとするが全然かからない

おじさんがキックするたびふたりは「オー」と声を上げた

時折若いふたりに「がんばって」といわれるのが嬉しくも有りプレッシャーでもあった

今日は現物確認で受け渡しは現状渡しとの約束であったが

ふたりの様子を見るからに現物確認も現状渡しの意味も理解していないだろう

おじさんは仕方なくキャブレターとエアクリーナーをばらす事にした

タンクから古いガソリンを抜き取りそれをパーツの洗浄に使い

汚れたガソリンは外に用意した焚き火の焚き付けに使った

外ではふたりがおじさんに貸して貰ったバケツと雑巾スポンジで

キャーキャーいいながらオートバイを洗車している

夏も過ぎ秋の兆しが見える長野ではやや肌寒くなりつつあり

ふたりは手が冷たくなると焚き火で暖をとったりしながら洗車に励んでいた

その光景を見て、おじさんはやれやれと思った

このオートバイはおじさんが若い頃ほかの町に住んでいた時に乗っていたもので

こちらに戻ってからも時折は使っていたが、乗れる季節が限られる長野では

車が中心の生活となり次第にあまり乗らなくなって、長らく倉庫に眠っていたところを

最近になって知り合いの車屋から中古バイクの値段が高騰しているので

出来れば譲って欲しいと頼まれた事でその存在を思い出した

丁度その頃仕事でいつも訪れる町にバイクの免許取得のためにアルバイトをしている

女の子がいるというので話を持ちかけてみた

長らく存在を忘れていたオートバイではあったが、金目当てならとっくに売り払っており

多少の思い入れもあるからこそ売らずに手元においておいたもので

出来れば身近で使ってくれる人に譲りたいという気持ちがあった

おじさんは今日何度目かのやれやれという言葉を心の中でつぶやいて

古い工具箱の中をガサゴゾと探し物をした

そして新品のプラグを見つけた

外では汚れが落ち随分オートバイらしくなったオートバイに

26と504が交互に跨ってキャーキャー騒いでいた

おじさんは奇麗に組みなおしたキャブレーターやら新品のプラグやらを持ち

オートバイに向かった

驚くことに外装は埃まみれでもパッキンやら交換部品の類は殆ど劣化していなかった

バッテリーも液を入れ替え充電すると使えそうな程度には復活した

おじさんは言った「動きそうだぞ」

26、504「オーー!」

ふたりはおじさんがパーツを取り付ける姿を目を輝かして見ていた

ふたりが目を輝かして見ていたのは勿論おじさんではなくオートバイのほうだが

おじさんはふたりに頼られ喜ばれることをしているようでもあり何となく嬉しくもあった

組み終わったオートバイに新しいガソリンを5リットルほど注ぎ

コックをONにして暫く休憩することにした

休憩の間ふたりは、おじさんに貰った餅を食べながら焚き火に当たりつつ

なにやら会話に花が咲いていた

これからオートバイでどこにいこうか盛り上がっているのだろうか

おじさんがヘルメットを持って戻ってきた

おじさんがバイクに跨り大きく蹴り込むと

エンジンがトトトッと反応したがすぐに止まってしまった

訳の分かっていないふたりは「オー」と声を上げた

おじさんは言った「いけそうだねえ」

もう一度跨り二回続けて蹴り込むとバーンとエンジンの動く音がし

おじさんはそのままスタンドを外しゆっくりと走り始めてどこかへ行ってしまった

26「504ちゃん、すごいよ動いてるよ、504ちゃんあれにのるんだよ」

504「う、うん」

504は自分のものになるであろうオートバイが動いている事と

これからあのオートバイを運転して帰る緊張で目を丸くしていた

それから暫くしておじさんが帰ってきた

乗って帰るつもりのふたりが途中でエンジンが止まって立ち往生しないように

試運転してきたのだろう

自分の目前にオートバイが帰ってきたとき、504の緊張と高揚はピークに達した

おじさん「さ、のってみるかい?」

504「・・う、うん」

おじさんは再びエンジンが止まってしまわないようにエンジンを軽くふかし続けている

ところどころ錆びた社外製のマフラーから勢い良く排気ガスが吹き出ていたが

音は意外と静かで心地よかった

504はオートバイに跨りスタンドをはずした

教習車に乗ったことはあったが緊張から酷く重く感じた

504はゆっくりとクラッチを離した、つもりだったが

思ったよりオートバイが前に出た気がしたのでとっさに強くブレーキを握ってしまい

ドテッっと、そのまま転んだ

26「504ちゃん大丈夫??大丈夫??」

504は横にいたおじさんがとっさに抱えてくれたので怪我は無かった

土の上だったのでオートバイの傷もたいした事は無かった

504「・・アハハ・・アハハ」

恥ずかしさと緊張と転んだショックで訳の分からなくなっていた504であったが

ヘルメットをキュキュっとつけ直し再びおじさんがエンジンを掛けてくれたオートバイに跨った

ドッドッドと引っ張られるような発進ではあったが今度はかろうじて発進できた

26「うぉー、504ちゃん走ってる走ってるーー」

初めはおっかなびっくりでも運転することの楽しさ新鮮さで気持ちが高揚したが

暫く走って慣れて来たころには、504は初めて自分の財産といえるものと

自由な移動手段を手に入れた喜びがこみ上げていた

504「すごくいいです」

おじさん「そりゃあよかった、乗って帰るの?」

504「勿論です、ハイ」

26はもうすでに目を輝かしてヘルメットをかぶって待っていた

26のヘルメットは軍施設のゴミ捨て場に放置されていたものを拝借してきたものだ

オートバイ用のヘルメットは彼女達にとってかなり高価なものだった

504は免許を取るまでは借り物のヘルメットを使っていたが

免許を取ったのち、残りのバイト代で自分のヘルメットを買うためお店に行った

勿論広告に出ているような有名メーカーのヘルメットが欲しかったが

実際お店に行き、並んでいるヘルメットの金額を見て目を丸くした

考えていたより、桁が1つ大きいのだ

504は有名メーカーのものは諦め安くてかわいいヘルメットを

8000円で購入した、今はとても気に入っている

自分のヘルメットをかぶり、自分のオートバイに乗るという行為にふたりとも興奮していた

おじさんに挨拶をして26を後ろに乗せた504は颯爽と走り始めた

走り始めてしまったふたりを見て、おじさんは「あっ」と思ったが

まあいいかと気を持ち直した「やれやれ赤字だな」

試運転で出かけた際、504と26がこのあと乗って帰るつもりだと

気付いていたおじさんは、自腹で9000円を払い自賠責保険に加入していたのだ

事前に説明していた月末払いの掛け捨て保険はルイージ・トレッリ名義にして

書類はシートの下に入れてある

税金はほかの請求書に紛れて毎年支払われていた

「代金1万円貰っても9000円出費じゃ1000円しか残らんな」のつもりだったが

興奮した504と26はオートバイの代金を払うことを忘れて走り去ってしまった

ほんとやれやれだなとおじさんは自分の今日一日に苦笑いした

(そのうち気が付いて送ってくるだろう、名義変更できたら連絡も貰う予定だしな)

26「はやい、はやいー」

504「ねー、はやいねー」

504と26は国道に出てひたすら南下し続けていた

おじさんの家から県道に出てそのまま国道に入れば後は山梨まで一本道だった

まだ日は暮れていなかったが余りのんびりしていると夕方までに山梨にたどり着けなそうではあった

26「504ちゃん、休憩は大丈夫?」

もう随分と山梨には近づいていたし向こうを出てから走りっぱなしだったので

504と26は広めの路肩に停車し、おじさんに貰ったジュースを飲むことにした

26「すごいねー、ほんと楽しー」

26「また来ようね、絶対来ようね」

ふたりはただ走り続けているだけで訳も無く気持ちが高揚した

初秋の長野は風景がとても奇麗で天気も良かった

504「ねー絶対ねー」

ふたりは指切りをした

ふたりは高揚のあまり疲れた喉が渇いたなどの感覚は一切忘れていたので

一旦止まって、ジュースを口に含むと酷くそれがおいしく感じられた

26「長野のジュースおいしいねー」

504「このジュースうちの店で売ってるのと一緒だよー」

26「えー長野特製じゃない?絶対違うよー味が全然違う」

ふたりは顔を見合わせて笑った

26も同じであることは分かっているのだろう

ヘルメットを脱いだふたりの頭は酷くぺったんこになっていたが

ふたりは気にする風も無かった

504は再びヘルメットをかぶった

なにかそれが特別な意味のあるしぐさであるかのように504は誇らしげだった

26「504ちゃん、疲れたら言ってね、運転代わるから」

504「えーだめだよう」

ふたりは笑いながら再び走り始めた

道沿いに店舗や民家が増え始めた

504にとって新たな試練が待っていた

初めてのガソリンスタンドである

26「504ちゃん燃料は?」

軍の給油施設は知っているがガソリンスタンドで給油するのは始めてである

ガソリンスタンドに入るとどこに行っていいのか分からずスタンド内を見渡した

504にとって給油といえば長い給油ホースである

天井からぶら下がった長い給油ホースを見つけた504はきっとこれに違いないと思い

そこまでいって店員に自信なさげに声を掛けた

504「す、すいません、給油をお願いします」

店員はトラック用の給油ホースの下にいる504を見つけ

「バイクをお預かりします」と

こともなげにガソリン用給油機の前に504のオートバイを移動した

店員「ハイオクとレギュラーどちらにしますか?」

504「ど、どっちがいいですか?」

店員は504を馬鹿にすることも無く簡単にガソリンの説明をした

504は良く分からなかったがなんとなくハイオクを選んだ

それがオートバイを大切にしているという行為のように感じたからだ

504は自分のオートバイにガソリンが給油されるのを

うっとりしながら眺めていた

ちょっと後ろに下がっって遠くから眺めてみたりもしてご満悦だった

26「504ちゃん!」

504「わっ、びっくりした」

26は店内のウォーターサーバーから紙コップに注いだお茶を持っていた

504が離れたところから自分のオートバイを見ようと後ろに下がり

店内のガラス戸に近づいたので渡そうと思ったのだ

26「もう近いね」

向こうで店員が呼んでいる

給油が終わったのだ

504は2000円を支払いとりあえず店を出た

504も26の言葉の意味は分かっていた

まだ帰りたくないのだ

両手にお茶の入った紙コップをもってうしろから26が歩いてくる

近くの道端でお茶を飲むことにした

504「でも、どこにいくの?道とか分かるとこある?」

26「504ちゃんあれあれ」

504が差された上を見上げると「東京まで1×0km」の標識があった

504「え!ほんとに!」

26「ほんとほんと!」

504「今来た道の3倍くらいあるよ」

26「そう今来た道3回分くらいで着いちゃうんだよ」

26「行ってみたくない?」

504「・・でも帰るの遅くなって、だいじょうぶかなあ」

26「あしたもお休みだしこんな機会もうないよ」

今日の504と26はとても気持ちが高揚していて一線を越えるハードルは非常に低かった

504「・・だよねえ、たまにはおこられてもいいか」

長野は初めて行く場所なので無難をとって帰りは夜と職員に伝えてあることも手伝って

ふたりの気持ちは更に大きくなっていた

ふたりは再びオートバイに乗り今来た国道をそのまま東に走り始めた

504が運転するオートバイは山梨を抜け、相模湖沿いを走っていた

26「うわー、海みたい、ほら船だよ船」

504「海じゃないの?ほんとだ小さい船が沢山いるー、魚獲ってるのかなあ」

道が細く曲がりくねり始めたことにより504はスピードを落としていたので

オートバイに乗ったままでも互いの言葉が良く聞こえた

26「湖にもさかなとかいるの?」

ふたりは久しぶりに見た海みたいなものに興奮が隠せない

道路から見下ろす湖は水面がキラキラしていてとても美しく見えた

高揚したふたりの気持ちも手伝ってなおさらそう見えるのだろう

26「おーい」

はるかかなたの湖に浮かぶ小さい舟に手を振る26

504「見えるわけないよー」

26「ほらほら、今手を振り返したよ」

504「ほんとにー?」

26「ほんとほんと」

504「おーい」

504「向こうの人もおーいって言ったよ今」

26「ほんとに?」

504「そんな気がした」

26「アハハ」

相模湖も通り過ぎふたりを乗せたオートバイは大垂水峠にさしかかっていた

26「うわっすごいカーブの上り坂だよ」

504はギヤを落とさずスピードを落としていたためエンジンの回転も落ち

登りはじめに四苦八苦した

26「504ちゃんがんばれー」

今度はギヤを落とし過ぎたためウンウン唸りながら低速で進む

暫く走って慣れてきた頃、頭上に東京都の標識を見つけた

26「東京だよ!もう東京に着いたよ、504ちゃんすごい」

504は曲がりくねった峠道に必死で聞こえてはいたが返事はしなかった

もう半分日も落ちかけてあたりも薄暗くなり始めていた

26「夕焼けキレイだねー」

木々に囲まれた峠道を504は無言で走り続けていたが

ほんとはちょっぴり気分が良かった

なんとなく自分の運転が上手くなった気がしてきたのだ

ハンドルにしがみついて低速で走る姿は傍から見れば不恰好だろうが

504の頭の中にはかっこいい自分しかいなかった

26「504ちゃん運転慣れてきたんじゃない?」

最初より多少スムーズに走らせる504の姿に26はなんとなく頼もしさも感じたが

お世辞も半分だった

26「このみちどこまでつづくのかなあ」

26「もしかして東京ってこんな道ばっかり?」

504は少し気が遠くなる思いがした

慣れてきたとは言え曲がりくねって迫り来る壁とガードレールはやはり怖い

下りに差し掛かった今となってはなおさらだ

外国生まれの504も当然東京のことはある程度聞いていたが

その周辺道路の状況までは知る良しもなかった

神奈川育ちの26に東京はこんな道ばかりといわれて

少し止まって休みたい気持ちになったが下り始めてからは

適当に止まれそうな場所も見当たらなかった

26「ほらほら、なんか光ってる建物あるよ」

26「お泊りって書いてあるよ、派手な旅館ねえ」

段々目の前の道も開けてきて建物が増えてきた

26「この辺て旅館だらけなのねえ、温泉でもあるのかしら?」

道も真っ直ぐになり始め504も余裕が出てきた

504「いつかふたりで泊まりに来ようよ、ね、そうしよう」

504は緊張から開放された安堵感と何かやり遂げた気分から

オートバイの動きもいっそう軽やかに感じられた

26「ここも東京かなあ、お店いっぱいあるねー」

もう辺りは暗くなり始めていて、オートバイのライトが八王子の街並みを照らした

オートバイは国道をひたすら東に走り続けていたが

今自分たちのいるところが本当に東京なのかふたりには自信が無かった

504「この辺て26ちゃんの鎮守府に近いんじゃないの?」

26「内陸のほうは知らないよー、鎮守府からあまり出たこと無いからねー」

ふたりを乗せたオートバイは多摩川も渡り更に東へと進んだ

26「さすがにもう東京でしょう」

504「さすがに東京だね」

ふたりはこの辺で一度休憩をすることにした

ジュースの買えそうなお店の前で止まり26を降ろすと

スタンドを立てようとして504は再びズッコケた

26「504ちゃん大丈夫大丈夫?」

504「アハハ、アハハ」

504は自分でも何がおきたか分からなかったが

思っていたよりガチガチになって運転していた為

スタンドを立てるとき、バランスを保つ力が入らなかったのだ

26がすぐに駆けつけふたりで即座に起こしたためガソリンもほんの少し漏れただけで済んだ

あまりに息ピッタリに軽々とバイクを引き起こせたためふたりはちょっと驚いて顔を見合わせた

26「私達やるねー」

504「さすが相棒だねー、アハハ」

504の笑いはちょっと照れ隠しもあった

ふたりは店内に入りジュースを買いレジ横の地図を眺めた

店員さんに今どの辺かを教えてもらい堂々と立ち読みをした

今のふたりはいろいろな意味で色々飛んでしまっていた

店員も怒るでもなくニコニコとそれを見守る

店員さんに立ち読みのお礼を言い店を出てオートバイに座りジュースを飲んだ

26「東京のジュースもおいしいねー」

504「全然味が違うねー」

26「ほんとにー?」

504「アハハ」

ふたりは何もかも気分が良かった

どこまでもこの時間が続くような気がした

実際店内で時計を見たとき、向こうを出てから思ったほど時間が経っていない事に気がついた

まだまだこんな時間が続くのだとふたりは信じて疑うことは無かった

都心に近づくと交通量も増えてきた

26「見て見て、おっきいビル」

思わず504も余所見をしていた

504「おっきいねー、うわっほんとおっきいー」

26「504ちゃん写真とろう写真」

504「26ちゃんカメラ持ってるの?」

26「もってないけど写真とろう」

504「いいねーとろうとろう、アハハ」

前方の停車車両を避けようと1つ右のレーンに入り

流されるまま右折していたが道路が広くて504は気がつかなかった

ふたりを乗せたオートバイは道幅の広い大きくカーブする道路に差し掛かっていた

峠道とは違い全く危険を感じさせない大きなカーブで504はとても気持ちよくオートバイを走らせた

もはや帰りの心配なんてふたりの頭の中には1mmもなかった

504「大きい川だねー」

26「うぉー、お城みたいなの見えるね」

504「うわ、ほんとだ、偉い人とか住んでるのかなあ」

504は広い道路の兎に角一番左を走り続けた

道なりにただ走り続けた

本人は軽快に飛ばしているつもりだが周囲から見ればかなりの低速だ

26「どっちが真っ直ぐ?」

504「え?」

26「504ちゃん今曲がったでしょ?」

504「道なりだよ」

26「そう?」

26「見て見て、おっきい門」

504「え?え?見えなかったよ」

26「これお庭なのかなあ、ひろいねー」

26「ほらまたお城お城」

504「・・・・」

道は広くて真っ直ぐだったが何度も余所見を出来る余裕はさすがになかった

504は私も見たいなあと後ろの26を少しだけうらやましく思った

それでも時折、城的なものが504の視界にもチラリと入ることはあった

504「ほらほら、26ちゃん川だよ、やっぱり川沿いを真っ直ぐ来てるんだよ」

26「うんうん、川だねー」

26「504ちゃん、川渡ったよー、どっちが真っ直ぐ?」

504「どっちって、どっち?」

504は広いが交通量のあるこの道路を道なりに走るだけでも精一杯で

道路の分岐など全く視野に入っておらず、ただひたすらに左端を走り続けた

26「長いお城ねー、この辺は全部お城なのねー」

26「あれあれ、504ちゃん、守衛さん、守衛さん」

道の先には大きなランプの付いた門があり、その下に守衛室らしきものが見えた

そこに入る車は一旦停車し何かを話しているようだった

26「お城の入り口かなあ」

504は路肩にオートバイを止め距離をとって様子を伺った

勿論、軍の施設であれば通報される恐れもあるからだ

504「道間違えたかなあ」

到底後ろに戻れそうな道など無かったので警戒されない程度にゆっくり近づいた

なにやら地名と距離の書いてある看板が見える、そして試験で見た青い交通標識

504「26ちゃん高速道路だよ、高速道路」

26「うぉー、高速道路!、乗りたい乗りたい」

既視感はあったがいざ知らない土地でいきなり目の前に現れ

とっさに判断を迫られるとそれは全く知らないものに見えた

504「どこにつくんだろうね?」

26「一番右にも車走ってるよ」

504「あっちはどっちにいくんだろうね」

高速入り口の右脇にも道路があり入り口を避けるように車が続いていく

26「どっちっじゃないほうはどっちのほう?」

504「どっちもどっちだねえ」

504はとりあえず高速横の右端の道を選んだ

多少気は引かれたが、504は高速道路のルールがよく分からず乗るのが怖かった

暫く進むとまた大きな道に差し掛かった

前の車が連続して左に曲がり、ひたすら左端を走る504も自然とそれに従った

直進した道はあまり大きくない道路に見えた

26「また川があるね」

非常に大きな道路で今まで通っって来た道と同じように

道沿いには川らしきものが見えた

504は少し安心した

504「どこかにつきそうだね」

26「ねー」

目的地は特に無かったが大きな道はどこにでも繋がっていそうでとりあえず安心した

504はこの道に出るまで多少ドキドキしていたが26はそうでもないようにも見えた

26「ほらほら、またお城お城」

26「お城いっぱいあるね、この辺お城ばっかりだね」

大きくカーブした道を進んでいくと26は見覚えのある門を見つける

26「ほらほら、また曲がった」

504「なにが曲がったの?」

26「504ちゃんが曲がった」

26「おなじとこ、おなじとこ」

初めは運転に気をとられ訳がわからなかった504だが

直線になった道を暫く進んでいると504も次第に気が付き始めた

先ほどと同じところを周っているのではないだろうか?と

26「ほら、あっちが真っ直ぐじゃない?あっちにも道あるよ」

そして再び高速道路入り口が見えてきた

504は高速入り口を通り過ぎ先ほどと同じと思われる大きな道路に出ると

路肩の広いところでオートバイを止め小休止した

ふたりで色々話したが2回目は26が良く見て覚えていた

1回目に曲がった場所は左が国道なのでそこは左に行くことにした

2回目のカーブは右車線が直進なので今度はそこを直進することにした

目的地の無いふたりではあったが、知らない土地で大きな道から

外れてしまうのはやはり不安なのだ

大きな道にさえいれば迷っていないという事にふたりの中ではなっていた

再び504は左端を走り始めた

交通量はこの道に来た最初の時より若干少なくなっていた

最初の左折を曲がり真っ直ぐな道に出た

交通量がまばらになったことにより車線変更はしやすくなっていたが

流れに乗りながら前方と右後方を確認するのが

まだぎこちない504のために26は後ろから来る車を確認した

504はもうウインカーを出してはいたが右に入る踏ん切りはつかないようだった

26「右は大丈夫だよ、車まだ来ないよ」

再度前と右後方を確認しながらぎこちなく入ったので右後方から来る車と

一気に距離が縮まったが危険というほどではなかった

直進レーンに入ってすぐ504を先頭に赤信号になった

信号待ちの間、上手く車線変更出来たことに気を良くした

504はちょっとだけ格好をつけて腕組みをしていたが

車線変更に満足してウインカーを戻し忘れていた

26「504ちゃん、ウインカー」

504「・・アハハ、アハハ」

次の瞬間信号が青になったのであわててギアを入れた

504のオートバイはギクシャクしながら低速で走り始めた

暫く行くと大きな道に突き当たったが左に行くとお城の道に戻りそうで

右折することにした

右折と左折を何度か繰り返して大きな道を走り続けていると

504は聞き覚えのある駅名を見つけた

それは26も聞いたことのある駅名だった

504は何も言わず駅横の道に入り公園のような場所の

横にある道を走り始めた

504「おかしいなー」

26「おかしいねえ」

504が探しているらしき名称の看板はあちらこちらに見られるのだが

肝心のその場所がどこか分からなかった

26もそれがなにかはとっくに気がついているようだった

26「ほらほら、あの看板みて」

504「ここかなあ」

26「ちがうかなあ」

504はとりあえずそれらしき敷地に沿って周ってみることにした

26「504ちゃん地図地図」

26「ほら、ここ、ここ、見て見て」

504がオートバイから降りて歩道にある地図に近づくより早く

26はフェンス沿いに走りしながら叫んだ

26が指差す先には上野動物園の看板があった

504「うぉー」

26「うぉー」

ふたりは声を上げて走り出した

フェンス沿いに走っていくと入り口らしきものがあったが

当然、夜なので閉まっていた

504「なんか見える」

26「・・わかんない」

26はガードレールにのぼりフェンスの低いところから

中を懸命にのぞいたが収穫らしきものは無かった

504「26ちゃんあぶないよーー」

26がガードレールの上でつま先立ちしようとしたので

504はあわてて止めた

代わりに504が26を肩車することにした

504「なんか見える?」

26「・・わかんない」

26の方がやや背が高いので今度は26が肩車をすることにしたが

肩車をされた504の目線の位置は

先ほどの26のそれと余り変わらなかった

26「なんか見える?」

504「うーん・・分かんない」

26「遠くのほうは?キリンとか背が高いから見えるんじゃない?」

504「夜だからしゃがんでるのかなあ」

26「馬は立って寝るんじゃないの?」

504「キリンて馬なの?」

504「・・うーん、見えないねえ」

ふたりはこの日初めて少ししょんぼりした

504は26の肩から降り、ふたりはカードレールに腰掛けた

ちょっとだけ現実に戻った二人は

昼におじさんから貰ったお餅以外何も食べていないことに気がついた

近くにお店が見えたのでそこで何か買うことにした

ふたりは紅茶とカップ麺とおにぎりを買った

そしてまた立ち読みをした

504がレジ横にあるポットから手際よく26のカップ麺にお湯を注いで渡した

26は店員さんみたいだねと504をからかった

ふたりは店内にある小さなイスに腰掛け黙ってカップ麺とおにぎりを食べた

全部食べ終わるとゆっくりと紅茶を飲んだ

そしてお店を出た

お店を出たふたりは顔を見合わせて少し言葉を交わすと再び店内に戻った

そしてまた店を出てオートバイの場所まで戻った

彼女達は長野を出るときオートバイ用に買った伸びるカラー軍手をしていたが

お店を出た時に少し肌寒く感じたのでもう一枚買い足そうという事になった

ここまで来るのに凍えるくらい手が寒かったわけではない

ただなんとなく心配になったのと

何か身に着けるものをふたりで一緒に買いたかったのかもしれない

504が黄色を選ぶと26もそれがいいといった

504が同じ色だと見分けが付かなくなるよというと

見分けが付かなくても困らないよと26は言った

結局ふたりはおそろいの黄色いカラー軍手を買った

26は軍手を二枚重ねると顔の横で両手をにぎにぎしてみせた

26「がおー」

504もそれに倣った

504「にゃーー」

26「動物園に猫っているの?」

504「分かんない」

26「確かめに来よう」

26「確かめにまた来よう」

504「うんうん、絶対来ようね」

ふたりの顔に笑顔が戻った

長野を出たときの希望に満ち溢れた笑顔と同じ笑顔だった

ふたりは再びオートバイで走り始めた

動物園の門を過ぎ最初の道に戻るとそのまま国道に合流した

ふたりは地図でこの道がかなり遠くまで続いていることを確認していた

26「ようし、仙台までいこう」

504「いこう、いこう」

暫く走って国道沿いにあるガソリンスタンドに立ち寄った

今度はハイオクと書いてある機械の前に止めた

車も大分減りただひたすらに真っ直ぐな国道を走るのは気持ちが良かった

ふたりを乗せたオートバイは大きな川を渡り東京から離れ始めていた

26「ほらほら越谷だって、すごいねー」

504「コシガヤって何があるの?」

26「全然知らない」

504「アハハ」

26「ほらほら、春日部市だよー」

504「カスカベシって何県?」

26「わかんないけど」

26「きっとジュースが凄くおいしいんだよ」

504「アハハ」

26「がおー」

504「にゃー」

504のポケットにはバイト代の残り12000円が入っていた

おじさんに代金を払い忘れているので本当は22000円あるが

504はまだ気付いていない

ガソリンの入れ方も覚えた

なにも心配事はなかった、どこにでもいける気がした

それから間もなくして、兵学校は急激にあわただしくなった

娘達は次々と新たな転属先に赴任し

504は呉に、26は横須賀に戻ることになった

この兵学校だけではない

海軍のあらゆる部署が慌しい動きを見せていた

兵学校を離れてからも26と504の親交は続いていた

電話は自由に使えないので手紙によるやり取りを続けた

一度呉に26が任務で立ち寄った事があったが

鎮守府内は慌しくとてもふたりの時間を持つ余裕など無い状態だった

結局504が26に会う前に26は横須賀に帰っていった

鎮守府内の504の机の上には26と撮った写真が置いてある

東京に行った次の日にオリョールマートの店長に撮って貰ったものだ

オリョールマートの前でオートバイと並び

アタマがぺったんこのふたりが満面の笑みで立っている

オートバイのバックミラーには黄色い手袋が被せてある

そんな写真だ

呉を発つ前、26は504に手紙を残していた

短い手紙だった

時間が取れずに短い時間でやっと書けた手紙だろう

504ちゃんへ

お元気ですか

会えなくて残念です

横須賀に戻った後、南方の作戦に出発しますが

大艦隊で出撃するので心配しないで下さい

こんどまた動物園に行きましょう

今度は昼に行きましょう

26

そして26はレイテ沖から戻る事はなかった

それから暫くしたのち504も最後の任務に出る事になった

いつもの出撃とは少し趣が変わっていた

武器弾薬など兵装はつけていなかった

もはや戦中ではなかった

紀伊水道の中ほどまで来ると

504は立ち止まって空を見上げた

504「26ちゃん待っててくれるかな」

504はそっと目を閉じた

標的艦伊504ことルイージ・トレッリに対して

米軍(GHQ)による一斉砲撃が開始された

もう一度目を開ける間もなく504の頭上に無数の閃光が走った

長野のおじさんは仕事で久しぶりに山梨を訪れると

オリョールマートの片隅に真っ赤なオートバイを見つけた

504がいるのかと思い店主に声をかけた

504はアルバイトもオートバイのことも軍や兵学校には内緒にしていたので

東京から帰った後、止め場所に困りオリョールマートに止めさせてもらっていた

オートバイは禁止かどうか分からなかったが言わないほうがよい気がしたので

内緒にしていた

店主はおじさんに気がつくと簡単ないつものあいさつのあと

ここにオートバイがあるいきさつについて話し始めた

そこでおじさんは彼女達が軍属であったことを初めて聞かされた

あの激しい戦争で彼女達が無事である保証は何も無い

もし戦時下で生き残ったとしても終戦後にも色々あったのではないだろうかという事は

おじさんにも容易に想像ができた

軍属であればなおさらだ

こうして再びオートバイはおじさんの元に帰ることになった

ナンバープレートは変わっておらず、書類の名義もおじさんのままであった

それからおじさんはたまにオートバイに乗って出かけるようになった

しかし余り沢山は乗らなかった

自分のものであって自分のものではないような気がしたからだ

少し走ってエンジンの調子を見たり、たまに磨いて倉庫に戻した

春が来ると税金を支払い、秋になると保険を更新した

いつの日かヘルメットをぶら下げたふたりがやってきて

そのままオートバイに乗って帰ろうとするのではないかという気がしたからだ

そしてすぐに乗れないと分かるとひどくガッカリしたふたりの顔が浮かんだ

何でなのかよく分からないという顔つきだ

この日おじさんはオートバイに乗りいつもより少し長く出かけていた

帰ってきたオートバイには黒く光った新品のタイヤが付けられていた

やれやれだな

タイヤ代18000円の領収証を眺めた後、おじさんはそらを見上げた

Fin

*掛け捨ての保険について一応書いておきますけど、

現在はもう無いと思います

年配の方でも知ってる方はほぼいないんじゃないかと思いますけど

昔積み立て保険とか盛んで保険屋さんが羽振りが良かった時代に

一時期あった保険で保障されるのは対人対物などの基本的なものだけで

付帯、特約や等級が上がったりは一切なくてですね、

契約は契約書一枚に基本的なことを記入するだけ

毎月の料金を支払えば継続、払わなければ契約終了という簡単なものでした、

当然普通の任意保険より極端に安いということも無かったですけど

これで十分かなという保険でした

契約内容に応じて半年以上、何ヶ月以上という縛りもあったと思います

当時でもマイナーな契約方法でした

伊26と伊504   ジローとコウジの物語       Copyright(C)うーちゃんどっとねっと

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